「ねぇ和馬、バルカンファイターU知らない?」  言う頃には、みさとの手はゲームラックに伸びていた。 「お前が買ったのが俺の部屋にあるわけないだろ。それにそのゲーム触ったことも無いぞ」  そもそも格ゲーは苦手だ。みさととやったってイジメ倒されるに決まっている。  他の妹たちを誘っても同じ様なものだろうか。いや、ひなた辺りが意外と強いかも……  そんな俺の下らない考えなど露知らず、みさとは俺のゲームラックに飽きたのか今度はPC周りのCDを漁りだした。 「みさと。そんなトコにあるわけないだろ」 「和馬の部屋の管理体制なんてあたし知らないし」  そういう問題じゃない。管理体制と言うならその辺に十八禁ゲームがいくつかあるはずだ。 「お前の部屋は捜したのか?」 「馬鹿にしてんの?」  と、みさとは手を止めて眦を吊り上げた。 「じゃあちはやの部屋は?」  確かあいつの部屋にもPSがあったはずだ。百分の一セコンドを縮める為に一晩中プレイしていたのを眺めた記憶がある。 「……あぁ」  ぽん、と手を打つとみさとは一目散に部屋を駆け出して行った。後には四散したゲームディスクと、倒壊したCDケースの山。 「……詫びの一つも無しかよおい」  俺はなんだか情けなくなって、それでも、その惨状をどうにかすべく動くしかなかった。覚えてろよ。  ……  正直、みさとの奴にその手のゲームを紙一重で見られなかったことに、それでも安堵している俺が情けなかったのだが。  見敵必殺。  俺がその光景を目にして最初に思い浮かべたことは、そんな四字熟語だった。  …食卓のど真ん中に裏返った太郎様が居座って(?)いるのはなかなかにシュールな光景だったのだが。  俺にはそれを前にしてモリモリ朝飯を食ってるみさとの方がシュールに見えた。その足下にはおたまが一つ、無惨にうち捨てられている。先程の景気の良い音はそういう事だったか。 「おい、それ……」 「はぁ……」  困ったような苦笑を浮かべるのはちはや。箸は進んでいない。そりゃそうだろう。 「う、うぐ……お兄ちゃんナントカシテ……」  太郎さんを指した箸の先が震えているひなた。 「ただの虫じゃないの。なんで気にするかなぁ」  みさと、お前は間違ってはいない。いないが、賛同は絶対しない。 「よし……」  ティッシュを多めに三枚。それを太郎様の死骸の上にのせ、そっと掴み、クズかごへIN!  拍手喝采。とはいかなかったが、安堵の空気が朝の食卓を包んだ。  みさとと、さやかだけが我関せずといった調子で食べ終わった食器を流し台に放っている。 「和馬、それに皆も早く行かないと遅刻するよ」  その言葉に、俺を含む皆は慌てて朝食を食べ始めた。 「それじゃ、一足先にいってきまーす」  みさとはからかうようにひらひらと手を振って居間を出ていった。