「今夜は月が綺麗だな」  俺はさやかの頬を撫でながら、プールに映ってゆらゆらと揺れる満月を眺める。  月の光は人を狂わせるという。  うつむいていて見ることのできないさやかの瞳にも今、この月が映っているのだろうか。 「ん…ふっ…」  静かな、だが熱のこもった吐息が、さやかの唇から漏れた。  月明かりに照らされた、のびやかなさやかの肢体。  俺は濃紺の水着に包まれたその胸に、そうっと手を伸ばす。 「あっ…んんっ…!」  びくんと身体を震わせた拍子に、金網のフェンスとさやかの手首とを繋いだ手錠が、金属音を立てた。  ゆっくりと顔を上げる、さやか。  欲情に濡れた瞳が、俺を誘う。  俺はさやかの胸を包み込んでいる手に、力を込めた。 「くぅ…!」  さやかが顔をしかめる。おそらくは苦痛のために。  だが、今のさやかは苦痛や恥辱すら、快感に変える術を知っている。  手を離すと、分厚い素材の水着なのに、それを押し上げるように乳首がぷくんと飛び出していた。  俺は迷わずその乳首をつねりあげる。 「…あ! く…ああっ!」  明らかに快感の方が勝ったその声音に背中を押されるように、俺は自分の欲望を解放していく。 「学校でこんなことをされて感じてるなんて、お前はほんとに淫乱だな、さやか」 「……」  ハァハァと肩で息をしながら、さやかはぼんやりと俺を見る。  すでに俺の言葉の意味など、理解する気もないのだろう。  今のさやかは、ただ肉体の快楽を求めているだけのように見える。  俺は手を伸ばしてさやかの股間に触れた。 「ん、んんっ…!」  そこはすでに熱く潤んで、水着をしとどに濡らしていた。  俺は焦らすように、すぐにそこから手を離す。 「……う…」  不満そうな目で俺を見ながら、さやかは腰をくねらせて、触って欲しそうにその部分を突き出す。 「そんなにしてほしいか? まったく、どうしようもないな。恥ずかしい奴だ」 「……」 「よし、恥ずかしい奴に相応しい格好にしてやるよ」  俺はポケットから取り出す。  月の明かりに照らされて、鈍く銀色に輝く鋏を。 「こんなに乳首を大きくして…切ってやろうか?」  俺は水着の上から、ツンと突き出た乳首に鋏をあてがう。  さやかの身体がぶるっと震える。  それは恐怖のためなのか、それとも期待のためなのか。 「動くなよ。ホントに切るぞ」  とはいえ、俺は本気ではない。  さやかに怪我なんかさせる気は全くなかった。  だが。 「…いいよ、切っても」  熱に浮かされたように、ぽつりとつぶやくさやか。 「切って。切り刻んで。あたしを」  うっとりと、唄うように言うさやかを、俺は呆然と見ていた。 「切り刻んで。バラバラにして。…殺して」  さやかにとって、それは救いになりうるのか。  俺は不意に大声で泣き出しそうになる。 「……でも、その前にいっぱい…して。頭がおかしくなるくらい、なにも分からなくなるくらい」  不思議なほど、さやかの表情は穏やかだった。 「そしたら…切り刻んで、殺して。元があたしだったことも、分からないように」  目の前の景色がぼんやりと歪んでいた。  もしかしたら、俺は、すでに泣いていたのかもしれない。  そして、俺は鋏を見つめて、決心した。  ジャキン。  銀の刃が切り裂いて行く。  濃紺の水着を。  さやかの心を。  俺は水着をさやかの肌に見たて、鋏をふるった。  冷たい金属の感触に、さやかが首をすくめる。  ジャキン。  紺の端布が足元に落ちて、風に飛ばされる。  ちょうど乳輪の部分を丸く切り取った。  濃紺の中に、淡いピンクの花がふたつ咲いた。  誘われるように、そこに唇をつける。 「あ、ああんっ! いい、いいよっ…もっと吸って…強く噛んでっ!」  俺はそうした。 「あ、いいっ! 兄貴っ、すごくいいよっ…!」  眩暈がする。  さやかの声が、耳の奥でこだましている。 「もっと…もっと噛んで、兄貴…! 噛み千切ってもいいから…っ」  ぎくりとして、唇を離す。 「あん…」  悲しげに鼻を鳴らして抗議するさやか。  唾液にまみれて色を濃くした乳首には、俺の歯型がくっきりと残っていた。  本当に噛み千切ってしまいそうな自分が恐かった。  俺は頭を振って、気を取りなおすと、股間の部分の布地を引っ張った。  さやかが腰を突き出して、協力してくれる。  ジャキン。  さやかの体液でいくぶん重くなったその部分に、鋏を入れる。  まずは小さく。  クリトリスのあたりだけが露出するように。  布地を引っ張っていた手を離すと、伸縮性に富んだ生地はぱちんと音を立てて再び股間に張りつく。  目論見どおり。  赤く勃起したクリトリスが、小さな窓から顔を覗かせていた。  俺は少し離れて、さやかの全身を改めて眺める。  深夜の学校。  月に照らされた屋外プール。  プールサイドで、フェンスに手錠で拘束された水着の少女。  濃紺のスクール水着は、乳首とクリトリスが露出するように丸く穴が開けられている。  そんな状態で、少女は息を荒げて股間を濡らし、俺を見つめている。  少女は、気が狂うほどセックスして欲しいと俺にねだり、殺して欲しいと俺に囁く。  ルナティック。  なるほど、月の光は、人を狂わせるのだろう。