「ただいま」  庭で水をまいているかすみに、軽く声をかける。 「あ、お兄様。お帰りなさいませ」  ホースを持ったまま顔だけこちらに向けて、小さく 頭を下げるかすみ。  相変わらず、言葉づかいがカタイ。  …ませ、とか言われるのも、どうか。  これじゃあ、とても兄妹とは思えない。 \ 「…あのさ、かすみ」 「はい、なんでしょう? お兄様」  再び、顔だけ俺の方に向けるかすみ。 「もうちょっと、こう、砕けた感じで話せない?」 「…あ……。ご、ごめんなさい…っ、わたし…」  かすみの表情が、いっそう硬くなる。  手の方がお留守になったらしく、足元にドボドボと 水がこぼれていく。 「あ、水、水! ほら、濡れてる!」 「あ…! す、すみませんっ」  かすみは慌てたようにホースを花壇の方に向ける。  そんなにうろたえられても、困る。 \ 「…あのね、別に怒ってるわけじゃないから」 「す、すみません…」 「いや、だから謝らなくても」 「は、はい…っ」  涙をこらえるように唇を結んで、俺の言葉を待って いるらしい。 「……」 「……」 「……」 「や、もう話は終わったんだけど」 「あ…はい…。すみません…」  かすみは肩を落として、花壇の方に向き直る。  うーん…。  コミュニケーションをとるのが難しい。 \ 「あ、ごめんなさいっ! 冷たかったですか?」 br  誰かに水をかけたのかと振り返ると@ br 「くぅ〜ん…」 br  かすみは、犬のジョンに向かって、ペコペコと頭を 下げていた…。\